面屋佐吉U
※注
・ストラトスフィア(成層圏)STRATOSPHERE
・ラスタチュカ(燕)Ласточка
・アンヘルAngel
・レグナLegna
↓
インディゴスカイ
Take-1【ラスタチュカ】
科学研究が進んだとある時代のとある国。
人は新たに義体と言う名の肉体を手に入れ、そして新たな力学を発見した。
法力学、と名付けられたそれは、地球内部から染み出す力、太陽から降り注ぐ力、
ありとあらゆる未知の力を、一定のプロセスを経て新たなエネルギーとする未知の領域。
一昔前ならそれは『魔法』とでも呼ばれていただろう。人類は法力学と言う新たなクリーンエネルギーを手にしていた。
政宗はその法力学と義体を融合させ、新たなステージへと突き進もうと模索した。
人の形でありながら、人でない義体のアンドロイド。
その体の要所々々に法力変換器を組み込んでやる。
そうする事で、理論上人の形でありながら法力を自在に操るアンドロイドが出来上がる結果になる。
しかし、まずぶつかった壁は法力変換器の小型化。
数年前まで変換器はどんなに小型化されても縦十五センチ以下にならないと言われていた。
まずはそこからの研究だった。どうすれば小型化出来るか。
出力を抑える事は出来れば避けたい。では?少ない入力で同じ量の出力が出るような公式を導かねばならなかった。
そうして試行錯誤の末、エネルギー循環を変換器の中で行う事により、より少ない外部入力で
出力の量は現存以上と言う成果を上げる事に成功した。
新たに開発された法力変換器を使用し、プロジェクト-ストラトスフィアは大きな前進をした。
そしてようやく、ようやく結果を出す事に成功した。
コードネーム-アンヘル。少女タイプのアンドロイド。
体の数十箇所に法力変換器を埋め込んだ飛行目的モデル。プロトタイプの個体名を『慶』と言った。
『こちらデルタフライト。ラスターチュカの後方に待機。依然順調、オーバー』
「こちら管制塔、了解した。そのままアルファフライトと合流まで予定通りだ、オーバー」
『Hei!こちらアルファフライト!ラスターチュカをレーダーで確認!』
「小十郎です。政宗様、ラスターチュカ順調です」
『O.Kッ!これよりラスターチュカ及びデルタとの合流ポイントへ参る』
「了解、その後ラスターチュカ確保を予定。相対速度にご注意下さい」
慶の人工知能の学習期間を終え、飛行訓練は順調に進んでいた。
初期の飛行訓練は全て屋内で行われた。
そうしないと、万が一の時に何処までも飛び上がって戻って来れなくなってしまう可能性も無くは無かったからだ。
最初はまず椅子の上から。次にテーブル。
次は念のためにマットを布いた階段。
下段から順々に。そうして行ってようやく飛ぶ事を覚えた慶は、屋外での飛行訓練を開始した。
そこからの上達はあっと言う間で、今彼女は外見からするとほぼ人の生身で戦闘機と共に飛んでいるのだ。
成層圏を飛ぶ戦闘機と共に訓練をする慶の事を、フライトコードで『ラスターチュカ-燕-』と呼んだ。
摂氏マイナス五十五度と言う劣悪な空を、慶は優雅に飛んで見せた。
慶はその背面部に埋め込まれた変換器から、凝縮した風の羽を三対展開させて飛行する。
羽は戦闘機のそれに近く、流線型の三角形をしていた。
彼女の皮膚にはどんな劣悪な環境にも耐えられるだけの強度を有した最新の人工皮膚を実験的に装着しており、
今までの飛行訓練の後に何度か張替えを行っていた。服に関しても同様に実験中の耐火繊維を使用した服を着ていた。
さて、今度の訓練ではどうなる事やら。管制塔で飛行訓練チームの帰りを待つ小十郎は穏やかな笑顔でいた。
『こちらアルファフライト。ラスターチュカを目視で確認。これよりラスターチュカの確保に入る』
『こちらデルタフライト。ラスターチュカが速度を落とし始めた。アルファ、相対速度に注意しろ』
『こちらアルファ、了解した』
レーダー上で光る点が、チームの所存をしる唯一の手掛かり。
レーダーから割り出される情報を元に立体映像化された別モニターも存在したが、若干のラグがあり、
小十郎はレーダーの古臭い独特の画面を凝視していた。
程なく、管制塔内部に無線が入る。
『こちらアルファフライト、たった今ラスターチュカと接触、確保。これより基地へと帰還する』
管制塔の中に、わぁっと歓声が上がる。
こればっかりは何度も訓練を行っているが、毎回のように安堵の歓声が上がる。
『こちらデルタフライト、アルファに習い帰還する、オーバー』
「こちら管制塔、両機共に訓練ご苦労。無事の帰還を命ずる、オーバー」
『O.K、小十郎!今日の夕飯は奮発しやがれ!』
『そうそうーわたしもいっぱい飛んでお腹空きましたぁ!』
突然回線に割り込んできてた慶の申し出に、小十郎は苦笑した。
「了解しました、腕によりをかけましょう。お二人とも楽しみに、オーバー」
超高々度の成層圏の空に、嬉しそうな少女の声が響き渡った。
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