※ストラトスフィア(成層圏)STRATOSPHERE
ラスタチュカ(燕)Ласточка
アンヘルAngel
レグナLegna
Take-2【アンヘル】
わたしは、プロジェクト-ストラトスフィアによって造られた、タイプコードネーム-アンヘル、個体名『慶』です。
現在、アンヘルタイプのプロトタイプ初号機として各実験を行っています。
先日、わたしの妹に当たる、アンヘルタイプの一号機と、レグナタイプの初号機が、超高々度飛行実験に成功しました。
わたしは、二人の飛行実験に一緒に参加しました。
アンヘルタイプ一号機、個体名『市-ICHI』と、レグナタイプ初号機、個体名『幸村-YUKIMURA』。
レグナタイプ、と言うのは当初からのプロジェクトコードネームだったアンヘル、
つまり『ANGEL』の逆さ読み『LEGNA』から。
新型アンドロイドの実験は順調に成果を上げ、
アンヘルタイプ-少女タイプとレグナタイプ-少年タイプに分かれて、今後実験が行われるようです。
わたし、慶のマスターはプロジェクトの発起人であり、最たる開発を行って来た伊達政宗博士。
妹の市には浅井長政博士、弟に当たる幸村には武田信玄博士がマスターとして面倒を見るそうです。
今、秀吉博士と半兵衛博士が新たなアンヘルタイプの設計をしているそうです。
マスターが言うには、半兵衛は飛行アンドロイドを兵器利用するための新型だと嫌な顔をします。
わたしは妹が増える事が嬉しいと話したら、ちょっとしょんぼりした顔で「そうだな」とわたしの頭を撫でてくれました。
そうそう、飛行実験の話です。
市は飛ぶのを少し怖がっているようでしたが、わたしが先に飛び手を引いてあげると
それに習って付いて来てくれました。
幸村はすぐにでも飛び出したいと言う風に脚部変換器から炎を出してウキウキしていました。
超高々度での飛行は、とても気持ちが良いです。
風が高速で鳴る音、併走飛行するジェット機のエンジン音、時々遠くで聞こえる鳥の声。
わたしは空の上がすきです。ずっと市と幸村にはそんな話をしてあげていました。
市は臆病な子です。屋内での飛行実験も、わたしの何倍も時間をかけたと政宗…マスターが言っていました。
その反対に幸村は好奇心旺盛な子で、何度も勢い余って天井にぶつかっていました。
信玄博士の助手の佐助さんは、その度に真っ青な顔でわーとかぎゃーとか叫んでいて、ちょっと面白かったです。
私の人工皮膚は実験段階だった物も多く、何度も張替えを行った覚えがあって、
同じように耐火性を高めたと言う服も何度もボロボロにして来ました。
でも、その研究成果から新しい人工皮膚や頭髪、耐火性の優れた繊維の開発が成され、
最近ではお気に入りの服を襤褸にしてしまう事も少ないです。
市や幸村の皮膚や服にはその成果が存分に発揮されていて、特に市は丁寧に飛ぶので服をダメにしてしまう事はありません。
その逆で、調子にのった幸村は良く無茶な加速や宙返りをしては想定外の耐火値を弾き出して服をダメにしてしまいます。
でも信玄博士は笑ってそれを許します。新しい数値がデータとして取れた事を喜んでいるんです。
その辺はやっぱり政宗と違います。大人の余裕ってヤツです。
わたしの実験の時に政宗はしょっちゅう怒ります。
しかも怒り方が尋常じゃないのです。
政宗はいつも戦闘機の後部座席に乗っかってわたしの飛行実験に実地参加します。
ちょっと無茶な飛び方をすると、すぐに無線で怒ります。戦闘機に掴まって帰る時には、接触回線からぐちぐちとうるさいです。
やれ服がダメになる、髪が焼ける、顔の皮膚にダメージを負うような飛び方はするな。
過保護にも程があるよね、とわたしは小十郎さんと良く話すんです。
小太郎だって笑ってるのよ。
でも、そう言う時いつも小十郎さんは言うんです。
「政宗様は、君の事をとても愛しているんだよ」
そう言われると、わたしはぐうの音も出なくなるんです。
そりゃあ、ねぇ。素直に嬉しいんだもの。
色んな話を色んな人から聞く限り、アンドロイドって言うのは、愛されなくて当然と言う風潮が少なからずあると聞くから。
無茶をするな、と言うのはわたしの身を案じているから。
服だ髪だ顔だ、とうるさく言うのは、わたしを美しく保ちたいと思うから。
親心、親愛。そう言う言葉で一括りにしてしまうには勿体無い感情を、わたしは惜し気もなく与えられている。
それはとても恵まれた事なんだって、小十郎さんは説いてくれた。そっか、と思うと同時に、わたしはやっぱり嬉しくなった。
次の実験の時は、良い数値を出しつつ無茶をしないように気をつけようと思うの。
……それを無事に実行出来た試しはないんだけどね。
「慶ちゃん…」
ドアの開く音と、か細い声が同時に背後から聞こえた。振り返ると、市と小太郎の無口コンビが立っていた。
「あの…」
口篭る市を励ますように、小太郎が彼女の服をついと引いてやる。それに頷いた市は、意を決したように口を開く。
「あの、慶ちゃん。今日の、夜間飛行訓練……なんだけど」
そうそう。今日は市の夜間訓練の日。
幸村は一昨日の訓練の時に人工頭髪の一部を焦がしてしまって、現在メンテナンス中だった。
だから今日の訓練は市一人で飛ばなきゃならないはず。
「あの、一緒に…訓練、出てもらえないかな……私、一人で飛ぶの……怖くて」
やっぱり、ね。
「いいよ!政宗に言って、わたしも一緒に飛ぶ」
市が安堵したように顔を綻ばせた。だって、可愛い妹が心細く訓練をするのなんて可哀想じゃない。
市の横に居た小太郎は、小さく「よかったね」と市と笑いあった。
「その前に、レポート書くって政宗に言っちゃったのよね。それまとめちゃうから、また後でね」
プロジェクト-ストラトスフィア。アンヘルタイプ、個体名『慶』、報告。
全て順調です!オーバー!
作者コメント
「ストラトスフィア」は私の敬愛するミ/クトランスの第一人者う/たたP氏の同名の曲から。
「ラスタチュカ」も同曲の歌詞からリスペクトしました。
Angelをアンヘルと読んだり、反対から読んでLegna(レグナ)と言うのは「ドラ/ッグ/オン/ドラ/グーン」から。
義体と言う表現は「攻/殻機/動隊」から。法力学は「ギ/ルティ/ギ/ア2」から拝借しました。
自分の趣味を詰め込んだらこうなりました。後悔はしていないが、反省はしています…